2019年05月02日

恋する野心


あなたに恋する相手はたくさんいる。

私はあなたに恋する人たちの瞳を
見るのが好きだった。

あなたは一生懸命に
恋され続けようと
駆け出し走りつづけた。

もしかしたら、
私はあなたの瞳よりも
彼ら彼女たちの瞳に
惹かれていたのかもしれない。

あの子たちは
真っ直ぐあなたを見ていたよ。
曇り霧の中を貫くみたいに。
あの瞳が羨ましかった。

舞台を見ながら
横目であの子達を見ていたから、
あなたを見るのも横顔ばかり。

だけど、ほんの一瞬だけ、
正面を見たら、
あなたの唇が動いたのを見た。

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(恋されるだけじゃ、つまらない)


猛烈に胸を貫いた
あなたの強くしたたかな情熱的な野心。

目の前には可愛いレースを着て
無邪気にはしゃぐあなたとは真逆。

客席の中で記憶が飛んだことは
言うまでもない。


みんなあなたに恋してる、
野心も知らずに。

私はどうしたら良い?
あなたに恋するあの子達も見ていたい。

そのために、
あなたには可愛いレースを
しばらく着ていてほしい。

あなたはどうしたい?
あなたに恋する彼ら彼女たちを
見ていたい?

なんのために舞台を立っているのか
教えてほしい。

母を愛するため?
恋された相手を愛されるため?
仲間と愛し合うため?

かろうじてもう一度だけ、
勇気を出してあなたを正面から見た。

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(あたしは、あたしに夢中で恋してみたい)


野心は幻か。
自分に思い切り恋したいなんて、
こんな面白いことが
この世にあるだろうか。

野心は妄想か。
自分が誰よりも自分のファンになりたいと、
こんな真っ直ぐな視線が
地上にあるのだろうか。

あの舞台の間だけ
初めてあなたを見放さなかった。
見逃さず黒目の視野に標的を合わせ続けた。

あなたはどうしたい?
あなたの野心が本物なら、
あなたの面白くて真っ直ぐな野心を応援したい。

もっと見たい。
あなたがあなたに夢中になっていく、
あなたがあなたを好きになっていく
あなたを見ていたい。


もしもあなたが、
恋されるだけに飽きたのなら、何がほしい?

教えてほしい。

私たちはあなたの野心を、
やりたいことにこの愛を注ぐ。


posted by ユーリー at 05:01 | 命の解放

ひとつだけ、あなたを知りたくなったら。


「私の肩にホコリでもついてましたか?」

あなたに貰った髪留めを使わずにいたことを指摘され。大切にしまっていることを正直に話してしまわないように。

恥ずかしさから思わず目をそらした。


あなたの肩にホコリなんてついていない。だって近頃はわたくしが、あなたの洋服にアイロンかけているのだから。

あなたはわたくしの服をよく褒めるけれど、わたくしだってあなたを褒めたい。

人に褒められることはあっても、賞賛をあなたらしく伝える語釈なんて学んで来なかったから、どうしたらいいかわからない。

あなたがいつか、わたくしがアイロンをかけていることに気づいて話してくれたら。そこから話を広げられるのにと思ってる。

あなたは面倒臭い女だと思うだろう。同時に、あなたは嫌いじゃないと付け加えるだろう。

分かってる、もっとわかりやすくあなたに、与えて貰った分に褒めて仕舞えばいいことを。知っている、さらにあなたを知るために、言葉を待っているだけではダメなことくらい。


「怖い顔をして考えごとしているね」

「また、恐ろしくなって眼をそらすの?」

「いいや、割と…おっと、お茶が湧いたようだ」


今度は向こうがお茶を濁した。

とっさにいつものように怖がらないのか聞きたくて。恥ずかしさよりも好奇心が勝った自分の心の隙に、先ほど思う話題に触れた。

あなたが大切に差し出した髪留めをなぜ使わないのか。あなたは疑問に感じているのではなくて、と。


「あなたの価値観や好みに合わなかったんだね」

「でも、あなたは手作りしてくれた」

「私は失敗を認める。あなたは私の期待に背いて髪を下ろしてる」

「あなたの期待とは?」


わたくしが綺麗にシワを伸ばしたシャツを脱いで、あなたは大きく手を広げて深呼吸してみせた。
ほぼ、一息で早口で答えを述べた。


「たくさんの髪飾りを取り外し、髪をひとつにまとめて新しい世界に行くために身軽になれるかなと期待したんだ。

しかしあなたは、帰属の道へ再び帰ろうとしてる。再び、誇りを手にして王座に返り咲こうとしている。

あの時期待してしまったんだ。あなたと共に新しい未知の世界に行けると。私は失敗を認める」


もっと、ゆっくり話せば良いのに。

感情が伝わる前に次の言葉で繋げてしまうから、事実しか受け止められなかった。あなたはどうやら、感情は受け止めてほしくないらしい。

随分と過保護だ。きっと自分の感情をあてがったら、わたくしを壊してしまうと思っているのだろう。


「もしも、わたくしが、ある一定の美しさにを手に入れて満足し、王座に返り咲こうと帰還したら?」

「止めは、しないよ。あなたの意思と対峙する体力も学もないからね」


(そういう人は、珍しくないんだ)

一瞬すぎてため息だと思った音は声だった。

わたくしが気付けたのは、言葉に込められた深い猛烈な悲しみを感じたせい。言葉よりも感情が胸を貫いた。鋭すぎる言霊の刃にわたくしはたじろう。

やはりあの人は過保護だ。

初めからもっとこのように深い悲しみをあてがってくれたら、付き合いが短くても、もう少し耐性がついていたはずなのに。


「本当は気づいていた。

あなたが私のシャツのシワを伸ばしてくれることを。それを褒めて欲しがっていることを。

私にこう言うつもりなんだろう?『美しいシャツを着るにふさわしい誇り高い人だ』とね」


身動きが取れない、目線を合わせたまま、次に動かす指先1つまで読まれてる。

どうしてわたくしの瞳を見ないのに、寸分たがわず、わたくしの得たい思い出の描写を言葉で表現できるの?

教えて欲しい、どうしてこんなことができるのか。知りたいのだ、瞳を見るだけで立ちすくみ震えるあなたのことを。


「今のわたくしは、あなたの多くを知ろうとすれば壊れてしまうかもれない」

「うん、壊れるね」

「しかし、1つだけでいい。たったひとつだけ、あなたのことを教えて欲しい」


この言葉はどうやら予想外を射抜いたようで、あなたはわたくしの眼を思わずじっと見つめた。

もちろん、すぐにまた、逸らしたけれど。今のわたくしには充分だった。あなたはわたくしの成長が止まることを悲しんでいる。


「1つだけなら。」

「言って欲しい」

「気を惹きたがって、遠回しに、私の眼差しを得ようと考えてるときの怖い顔。最高に可愛いんだ」

「怖くは、ないの?」

「怖いよ。でも、冷たく逃げ出したい怖さじゃない。とても、暖かでずっとそばに居たくなる怖さだよ。こんなことを考えているのは、私以外にもいる」


あなたは爆弾発言を残して、再びシャツを羽織って扉の前まで歩き出した。

そもそも、可愛いと言った人を放っておくとは何事か。


「今日はあなたの過去と今、そして未来への魅力を語り合う会に参加するから」

「初めて聞いた」

「内緒にしてたからね。
可愛いと言うとあなたはそんなはずないって怒るから、でも可愛いと話がしたいから。
あなたの可愛さに気づいたときに同じような魅力に気づいた人たちで集まりあっているんだよ」


魅力的で大事な会合、自分たちだけ楽しもうと言うの?

しかし、参加してしまったら、きっと彼らを怯えさせてしまうだろう。強い、この瞳に。

わたくしがずっと求ていた「己も知らぬ己の美しさ」に気づく人たちの出会い。ずっと知りたかった「あなたの価値観を知る」時間。

ひどく理不尽な話だ。世の中儘ならぬ。癪に触る。だからせめてもの腹いせに、負けず嫌いなわたくしから嫌味の1つ手土産にして送り出した。


「シャツのボタン、互い違いに止めているけど。初めて吐露したのが恐ろしかったの?」

「緊張、した…」


指先がカチコチと、まるで機械人形のようにうまく動かせぬほど、緊張したらしい。

嫌味を言ってた手前、わたくしは腹を据えて己が創り出した思い出の後処理をした。ひとつひとつ、シャツの間違ったボタンを外して、正しい位置にボタンをはめる。


「ボタンを直してなんて頼んでないよ」

嫌味が返せるくらい、わたくしの瞳に慣れ始めてる。


あなたは美しいものが大好きなくせに、恐ろしくなり、おののくくせに逃げ出さない。天邪鬼ではあなたの方が群を抜いて突き出る。

あなたは大切だと思う話ときには、わたくしの瞳を逸らさずに見つめ合っているのだから。

わたくしも、あなたが解き放つあなたの本音を受け入れることに慣れたらいいと祈り願いながら。


最後のボタンをはめて襟を直してあげると、行ってらっしゃいと送り出した。

ドア内から見た、ドアの外にいるあなたの後ろ姿は、とても小さくて気高く誇りを纏っていた。

posted by ユーリー at 01:10 | 誇り高く美しい瞳