2019年05月03日

いつか愛するものたちに美しい愛を呟くのだ。


おかしい。最近、褒められてない気がする。

新しい服に袖を通して現れると。おぉ、と少し声を上げるが、すかさず、おはようと相変わらず横目に唱えるだけ。

気づかれているのはわかっているが、わざと向こうの好みに合わせて着せて見せると、ガラス越しに履いたブーツをちらりと見返す程度。


おかしい。先日から確かに賞賛されてない気がする。

とろとろのチーズパスタの一本まで食べきることができたのなら、いちいち自分と比べて綺麗に食べると賞賛していた。

気づかれたとしてもかまわないから敢えて汚く食べて見たら、調子が悪ければ粥を作ろうかと言われた。


ここ数週間、あの人は好奇心を満たす旅程より、書類を作っては送り、送られてきた書類をじっと部屋で見返す日々が続いている。

気にならないわけではない。以前とは違う変化が目の前で起きているのだから。隠していないのだろうと思い、ちらりと隣に座り盗み見た。


『拝啓、お元気ですか。

あなたに作っていただいた逃げ道を頼りに一旦は別の道を行くことで、僕は安全に療養することができました。

思いの外にあなたの作り出した逃げ道は、僕にとって素晴らしい舞台に続く道の近道となりました。逃げ道だと思っていたのに近道だなんて、さすがすごい、やりますね。

あなたは僕の疑問にこう返しました。「近道は君が作っていたものだよ」僕は自分で作った道すら気づくことができないほど、混乱と衰弱していたなんて。今思い出しても末恐ろしい。

僕はあなたが何でもできる人だと思っていたけれど、目的地まで近道を作ることができるのは、僕の方が秀でていたことを褒めてくださいました。

それからあなたは自分に足りないものを認めて素直に僕に頼りました。あなたが尋ねた疑問、言葉がまとまりましたのでここでお答えしましょう。

変化の見えない「可の人」をこれ以上、褒めてはいけません。

なぜなら、あの人は…

……』


「これは?」

ついに声に出た。出てしまった。

さっと体を引かれて書類を隠される。お互いあまりの驚きに身じろぎできずにいたら、新しい書類が届いた。

文通を盗み見たわたくしが受け取るなどお門違いだが、すぐドアに差し込まれた書類を取りに走った。


「わたくしには、この書類を見る権利がある」

理屈も正義もない持論だけで堂々と宣言した。


観念したのか、あの人はこれで嫌われても仕方がないねと呟いて背を向けて隣に座った。

封を切ると文体の違う多国籍なポエムが書かれた書類が何枚も入っていた。

たぶんあの人が助けてたであろう本人の著書を見つけると、今度こそ内容を見逃さぬように読み進める。


『拝啓、ご体調はいかがですか?

あなたの小さな体が以前は憔悴しかけたと伝え聞いた時、驚きました。なぜあなたはこんなにも、たくさんの視点につながるたくさんの逃げ道を作れるのでしょうか。

僕のアドバイスはいかがですか?うまくいっているでしょうか。繰り返しますが、行動して現れる彼女の反応は必要でも重要でもありません。

あなたが今知りたいとする好奇心を満たす近道を作りました。僕にはこんなことしかお手伝いできないけれど、できうる所まで助言と支援します。

あなたが強く求める、怖くて可愛い好奇心を満たす「私を褒めて」という眼差しが、もっと見つけられますように。』


随分な内容である。つまり、あの人は珍しく貪欲に欲しいもののためにじっと心を押して、欲しいものが現れるのを心待ちにしながら寡黙でいたのだ。

わたくしがあの人を素直に褒めてといえば、こんなことにはならなったろう。わたくしはわたくしに悔しがる。

苦く濾過してない水のお茶をすらヤケ酒のように飲み干して倒れてしまおうか。わたくかはわたくしを許せない。


「つい、出来心で」


天邪鬼で安直な素直の人が、したたかで知的な策士から享受されるなど。一体誰が予想しただろうか?

この感覚は覚えている。王座にいた頃、何度も体験していた。わたくしはあえて嫉妬を掻き立てるように己を奮い立たせ、果敢に挑み変化を楽しんだ。

まるで古代の歴史の口頭授業を思い出すくらいあいまいになってしまった。しかしあの人は気づかない、この抱く嫉妬に。

なぜならあなたは拗れた嫉妬を抱けぬほど、体力も学問も培っていないからだ。

わたくしは諦めて、あなたと向き合おう。己の嫉妬と向き合おう。二人の最も近道に近い逃げ道を見つけよう。


「素直に言おう。わたくしはあなたに嫉妬している。

いいや、これは美しいものではない。拗れた嫉妬、わたくしは震えながら様々な人々にまっすぐ好きと言えない。

あなたはできる。出来るからこそ、あなたの賞賛に思い寄せて素直になった気でいた。成長していた気がした。変化してみた気がした。

わたくしは恥ずかしい。この場を逃げ出したい、わたくしにも逃げ道をください」


あなたはようやく、怖くて面白いところが良いと、褒めた。

人は得意なことと自覚あることは早く行動できるものだ、すぐさま逃げ道を作ると送られてきたポエムを読むように進めた。

ポエムを読んで擬似体験することで、愛を伝える素直さを培えばいいと。

実際に好きな人たちに愛を呟かなくても、いつか大切なひとに大事な時に呟ける練習ができるよと。

残酷で甘ったるい書類だけを残し、テーブルの前で右往左往するわたくしを置いて、送られた返信を書くためにペンを探しに行った。


さて、わたくしは
慣れない暑苦しい愛のポエムを
読むことを決意する。

いつか来る。近いうちに訪れる。

好きなものたちに、
素直そのまま愛を呟かねば
後悔に苛まされる選択となる時まで。

posted by ユーリー at 11:48 | 誇り高く美しい瞳