2018年04月09日

最後の一雫は体を冷やしもするし温めもする。

飲み干したあとの一雫を飲もうと、
必死にカップを覗き込む。

必死になるわたしをよそに、
一雫だけじゃなく二雫もポタポタと
テーブルに滴り落ちる。

ある日こんなことを考えた。

残ったカップの唇に救いきれない水滴跡、
コーヒー占いのように模様の描きを見て、
私を占うのだ。

なになに、どおれどれ。

声消えて離れた恋人、
声届かぬ仕事の想い、
声発せず感謝の言葉。


冷え切ったコーヒーの一雫を飲み干すと
しゅうっと喉の奥が静まり返る。

ああ、わたしには語釈が足りない。

わたしには励ます語釈がない。


喉を通り過ぎた冷たいコーヒーは
わたしの背筋を冷やす。

そんなわたしは
しばらくコーヒー占いを封印したんだ。



「ねえ、コーヒー占いって知ってる?」

無邪気に彼女は答えた。

「ああ。知ってるよ」

興味なさそうに答える。


なるべく耳を開かないように、
おそらく最期の一滴まで、
すべからく何事も起きないよう祈りながら。

わたしは半ば心は必死に
大切な彼女のまえで丁寧に
カップのコーヒーを飲み干す。

「最後を丁寧に飲む人って素敵ね」

冷え切ったコーヒーの最期の一雫が、
喉を通り過ぎた。


ああ、わたしには語釈が足りない。

わたしには愛をつぶやく語釈が足りない。


喉を通り過ぎた冷たいコーヒーは
なぜか全身を温めた。


今は、少しだけ、
消えてしまう最後の一滴を楽しめる。

posted by さゆり at 06:53 | 命の解放
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