2018年06月08日

隊長は泣かない人生を捨てた。


王の騎士団の隊長であるこの私が、
わざわざこんな下賤な星に生まれ変わったのには意味がある。


それはどんなに小さくても輝いて見える、
どんなに静かな声でも透き通って聴いてしまう声の王。

我が故郷の星の未来の王であらせられるからだ。


王は、
別に知らない星で
別に知り合いでない王がいる
別に知らなくていい民の苦しみを共感したいとした。


民と共に腹をすかし、
店の前でヒモジイことを泣いた王を見たとき、
前の前のことが正しい現実なのかさえ疑問に見えた。


しかし王は、
これ以上なにもできないことに耐え忍びたくないと、
民の苦しみを詠った。


私は王の歌声を聴き。震えが止まらなかった。

知らない王の姿で目の前にいる。
悲しみを背に民を励ます王がいる。

王などいらないと叫ぶ、王がいる。


嗚呼、我が故郷の王よ。

私はあなたが王となった故郷に帰りたかった。

でも、もはや、今もう。
願いごとを流れ星に叶うことすらできないのですね?


時が満ちるまで。

必死に食い止めていた夢を叶える流れ星は、
ついに別の星の願いを叶えに飛び出してしまった。


だけど。嗚呼、どうして。

もっと民のために、
王を捨てようとする歌を聴きたくなるのだろう。


私の願いと本能は交差する。

王の父は通達した。

危機を感じた王の父が
我が子を、民を従えるべき役割に就くべきであると。


二つの次元に挟まれて、身動きが取れなくなった。
そんな時、とある吟遊詩人の歌に出会った。

「この歌は好きか」

「好きだよ、どうして?」

「この声は好きか」

「好きだよ、なにがあったの?」

「この人は好きか」

「わからないな。どんなひとなの?」

「ならば、会わせよう」


詩人は私の誘導尋問にひっかかり、
まるで自らの意志で王の歌を支援するかのように。

王を志願を達成するための材料となる一因となった。


三つの次元に挟まれて、呼吸もまばらになった。
ある日、あの詩人の歌を聞いた。

「その歌は何だ」

「あなたのために作った歌だよ」

「その声はなんだ」

「あなたのために練習した声だよ」

「その脚はどうした」

「王を助けに少し険しい山を登ってきたよ」


私は発狂しそうになると、詩人はなんども歌を歌った。

残念ながら温かい愛の歌を前に気が散ることも許されず、
詩人の歌によって理性を取り戻してしまった。


王はどんどん、さらに、
愛の歌をもって民の目に灯をともした。

ついに民たちは王を捨てる気持ちに火がついた。


私たちは王がいなくなった世界が怖くて、怖くて、
王の父親と共にマントをひるがえし、おびえていた。

恐怖の中、詩人の歌が聴こえた。
前よりもずっと小さく、前よりもずっと静かに胸に響く。


異変に思わず絶望を忘れて、
扉の向こうへ駆け出して、詩人と最後の会話をした。

「私のために歌を作る時の目が好きだ」

「あなたのひたむきさが好きだったよ」

「私は理性を取り戻してしまう手が好きだ」

「あなたの少しだけ卑怯なところが好きだったよ」


詩人は最後の愛の詩を手紙にしたため、
宇宙の風が吹いたとき、飛ばした。


宇宙には吹いてなかった風が起こる。

風に舞う手紙をみつめていると、
詩人は静かに目を閉じていた。


私は隊長の肩書を下した。
そうしたら、詩人のために涙を落とすことが許されるから。

少し泣いて、少し微笑んで、詩人の手にキスをしてつぶやいた。

今度はわたしも一緒に歌おう。


posted by さゆり at 00:27 | 会長と詩人シリーズ
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