2019年01月19日

おなじ歌を謡いにやってきた。


さあ、ココダ!ここをタタキ破れ!!

ここをタタキ破れば、
好きな声で歌う彼女の目の前で
あの歌を聴くことができるぞ!


大きくて黄金の金槌を持った大男達は
続々と数えきれぬほど集まってきて。

大気を覆う鉄板を叩き続けた。

厚い鉄板は大男達の腕力で
どんどん凹んでいったけれど、
彼女の歌う場所まで届かない。


もう少しで鉄板は地上差し掛かる時、
一人の少年がやってきた。

「これ以上叩き続けたら、
彼女が育てた花園を一緒に叩き潰してしまうよ」

彼らは慌てて、叩くのを一斉にやめた。


大男達は今まで頼んだこともない知恵者に頭を下げて、
鉄板を切り裂く光線銃を借りようと駆け出した。

知恵者達は拒否をした。

叩き破るような野蛮人には
この銃を使いこなせない、と。


落ち込んで帰ってくると、少年が駆け寄ってきた。

大人から教わったわかるだけの知識を話した。


「元気を出して、地上まであともう少し。

僕らも歌声に合わせてともに歌を贈ろう。

そうすればあの暗闇で作られた鉄板は、
愛のエールによって
錆びて朽ちて形を保てず落ちていく。

あなた達がここまで叩いてくれたから、
あと、もう少しなんだ。

これからは、
あの小さく聞こえる美しい歌に、
そば耳を立てて必死に聴くんじゃない。

僕らから声を届けるんだ。

僕らの歌を彼女に聞いてもらうんだ。

厚い鉄板に向かって、
僕らが彼女に向かって歌ってみよう」


歌は聞くものとばかり思っていた大男達は、
下手くそで、不器用を隠さず、
地上を覆う鉄板に向かって
大きな腹の底から大きな声で歌い続けた。


地上の歌姫は鉄板から震えて聞こえる
不器用で荒々しい美しい声に気がついた。


彼女は空に尋ねた。

「あなたは誰?
あなたの聞いたこともない声が好き」

大男達は大地に答えた。

「歌が好きな男達です、
ずっと聞いていたあなたの声が好きです」


2つの声が「好き」を呟いた時、
大気は揺れて共鳴しする。

共鳴振動は音波となり、
地上間際まで凹ませていた鉄板は、
重力もさほどかからずあっさりと崩れ落ちた。


彼女と彼らは出会った。双方は同じ歌を歌った。

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少年は言った。

「錆びるのを待つ必要なんてなかったね」

posted by ユーリー at 20:16 | 命の解放