きれいな声で鳴く猫は、猫のみんなの悩みを聞いているやさしい猫でした。
そして、まっくろな犬が苦手でした。
つよくて恐ろしい犬、猫は目を見るだけでおびえていました。
おなじ町にまっくろな犬がいました。
黒い影のような目でにらむ犬は、弱い犬を守ってあげる強い犬でした。
いつもニコニコしている猫、犬は目を見るとイライラしました。
ある日のことです。
ひとつの目とひとつの足をけがした子が歩いてきました。
犬なのか、猫なのかもわからない姿で、
うまく声も出せず、いつも叫んでいました。
その子とはまわりの誰も話そうとしませんでした・・・
まっしろな猫が勇気を出して語りかけました。
「きみ、なにか悩みごとでもあるのかい?一緒に考えよう」
あの子はあいかわらず、うめいています。
まっくろな犬が気になって話しかけました。
「痛くするやつがいたのか?俺が守ってやるぞ」
あの子はまだ、うめいて叫んでいます。
「ねえ、この子は猫だよ。どうしてやさしくするの?」
猫は怒って、ふーっといきをふきかけます。
「おい、どうみても犬だぞ。なぜ、語りかける」
犬は怒ってふうっとため息をつきます。
二匹の間に立っていたお花が、ゆっくりと風になびいてゆれました。
すると、あの子はふふっと笑いました。
まっしろな猫はもういちど、お花にふーっとしました。
あの子は笑いませんでした。
まっくろな犬も、もういちどふうっとため息をふきかけました。
なんどやっても笑いません。
二匹はがっかりして、一緒にためいきをふくと、
お花はもういちどダンスのようにゆれました。
あの子は大笑いました。
二匹が目と目を合わせて驚いていると、
あの子はお腹をかかえて笑いました。
おもしろくなって、もう一度お花をダンスさせました。
あの子はいつまでも、楽しそうに笑っていました。
二匹は面白くなって、毎日そうして笑わせてあげました。
ある朝の日、猫たちが言いました。
あんな猫より僕らの悩みを聞いてください。
そもそも、あの犬と仲良くなるなんて・・・と。
まっしろな猫はとてもしょんぼりしました。
犬たちが騒ぎ始めました。
あんな犬より僕らのそばで守ってください。
そもそも、猫と一緒にいるなんて・・・と。
まっくろな犬はとてもしょんぼりしました。
冷たいことばを猫たちはあの子に言いました。
まっしろな猫はいつも、やさしく語りかけ、
あの子をはげましていました。
つよいちからで犬たちは、
あの子を町から追い出そうとしました。
まっくろな犬はいつも、
犬たちからこの子を逃がしてあげました。
ある満月の夜、
二匹はあの子のために、
はじめて目と目をかよわせました。
猫はおびえます。獣の目を。
犬はイライラしました。あたたかい目を。
それでもゆっくりと、ふたつのこころをかよわせて。
「世界中の猫に嫌われても、この子を守りたい」
力強く、まっしろな猫は言いました。
「世界中の犬が敵になっても、この子を守りたい」
やさしい言葉で、まっくろな犬が言いました。
三匹で、この町よりずっと遠くの町へ行こうときめました。
あの子が安心してくらせるところへ。
ながい、ながい旅でした。
どこに行けば、どんな犬が、猫がいれば、
この子が一番しあわせになれるところなんだろうと。
二匹は考えながら、旅をつづけていました。
力強さと、やさしい言葉で守られたその子は、
じぶんの体がどんなにつかれて苦しくても、
二匹といっしょにいられてとてもしあわせでした。
やがて、旅の果てで・・・
ジャングルの湖のほとり。
けがしたあの子は、ゆっくりとたおれ。
息がゆっくりうすくなり。
まばたきをゆっくりうごかして。
気持ちよさそうにためいきをつきました。
「うれしかった」
声なのか、ためいきなのかわからない、
あの子のちいさなことばが、
湖の水の音にとけていきました。
そして、いつのまにか息をしていませんでした。
まっしろな猫とまっくろな犬は、
大きな声で空の神様にさけびました。
「どうか天国で幸せになってください。
私たちが大切だったイヌともネコともわからない
あの子が幸せになれますように」
なんども、なんども、なんども。
朝日はやがて昼間のあたたかな日に変わり、
そして夕陽になり。
夜になってもさけぶ二匹を見ていた神様が、
月からかたりかけました。
「あの子はきみたちと一緒に旅ができて、
とてもしあわせだった。なにもしんぱいしないで」
二匹は一緒によろこびましました。
ほんとうによかったと。
神様はつづけていいました。
「さあ、笑って。少しの間だけお別れしよう」
なみだはとまらなかったけれど、
二匹はせいいっぱい笑ってお別れを言いました。
「さようなら、また会いましょう」
神様のとなりにいたあの子が嬉しそうに、笑いました。
そうしてあの子は、神様と天国の旅へゆきました。