2019年03月07日

しあわせのため息

ある町にまっしろな猫がいました。

きれいな声で鳴く猫は、猫のみんなの悩みを聞いているやさしい猫でした。
そして、まっくろな犬が苦手でした。

つよくて恐ろしい犬、猫は目を見るだけでおびえていました。


おなじ町にまっくろな犬がいました。

黒い影のような目でにらむ犬は、弱い犬を守ってあげる強い犬でした。
いつもニコニコしている猫、犬は目を見るとイライラしました。


ある日のことです。

ひとつの目とひとつの足をけがした子が歩いてきました。

犬なのか、猫なのかもわからない姿で、
うまく声も出せず、いつも叫んでいました。

その子とはまわりの誰も話そうとしませんでした・・・

まっしろな猫が勇気を出して語りかけました。
「きみ、なにか悩みごとでもあるのかい?一緒に考えよう」

あの子はあいかわらず、うめいています。

まっくろな犬が気になって話しかけました。
「痛くするやつがいたのか?俺が守ってやるぞ」

あの子はまだ、うめいて叫んでいます。

「ねえ、この子は猫だよ。どうしてやさしくするの?」
猫は怒って、ふーっといきをふきかけます。

「おい、どうみても犬だぞ。なぜ、語りかける」
犬は怒ってふうっとため息をつきます。


二匹の間に立っていたお花が、ゆっくりと風になびいてゆれました。
すると、あの子はふふっと笑いました。

まっしろな猫はもういちど、お花にふーっとしました。
あの子は笑いませんでした。

まっくろな犬も、もういちどふうっとため息をふきかけました。
なんどやっても笑いません。

二匹はがっかりして、一緒にためいきをふくと、
お花はもういちどダンスのようにゆれました。

あの子は大笑いました。

二匹が目と目を合わせて驚いていると、
あの子はお腹をかかえて笑いました。

おもしろくなって、もう一度お花をダンスさせました。
あの子はいつまでも、楽しそうに笑っていました。

二匹は面白くなって、毎日そうして笑わせてあげました。


ある朝の日、猫たちが言いました。

あんな猫より僕らの悩みを聞いてください。
そもそも、あの犬と仲良くなるなんて・・・と。

まっしろな猫はとてもしょんぼりしました。


犬たちが騒ぎ始めました。

あんな犬より僕らのそばで守ってください。
そもそも、猫と一緒にいるなんて・・・と。

まっくろな犬はとてもしょんぼりしました。


冷たいことばを猫たちはあの子に言いました。

まっしろな猫はいつも、やさしく語りかけ、
あの子をはげましていました。

つよいちからで犬たちは、
あの子を町から追い出そうとしました。

まっくろな犬はいつも、
犬たちからこの子を逃がしてあげました。


ある満月の夜、
二匹はあの子のために、
はじめて目と目をかよわせました。

猫はおびえます。獣の目を。
犬はイライラしました。あたたかい目を。

それでもゆっくりと、ふたつのこころをかよわせて。


「世界中の猫に嫌われても、この子を守りたい」
力強く、まっしろな猫は言いました。

「世界中の犬が敵になっても、この子を守りたい」
やさしい言葉で、まっくろな犬が言いました。

三匹で、この町よりずっと遠くの町へ行こうときめました。
あの子が安心してくらせるところへ。


ながい、ながい旅でした。


どこに行けば、どんな犬が、猫がいれば、
この子が一番しあわせになれるところなんだろうと。

二匹は考えながら、旅をつづけていました。

力強さと、やさしい言葉で守られたその子は、
じぶんの体がどんなにつかれて苦しくても、
二匹といっしょにいられてとてもしあわせでした。


やがて、旅の果てで・・・

ジャングルの湖のほとり。

けがしたあの子は、ゆっくりとたおれ。

息がゆっくりうすくなり。

まばたきをゆっくりうごかして。

気持ちよさそうにためいきをつきました。

「うれしかった」

声なのか、ためいきなのかわからない、

あの子のちいさなことばが、
湖の水の音にとけていきました。

そして、いつのまにか息をしていませんでした。


まっしろな猫とまっくろな犬は、
大きな声で空の神様にさけびました。

「どうか天国で幸せになってください。
私たちが大切だったイヌともネコともわからない
あの子が幸せになれますように」

なんども、なんども、なんども。

朝日はやがて昼間のあたたかな日に変わり、
そして夕陽になり。

夜になってもさけぶ二匹を見ていた神様が、
月からかたりかけました。

「あの子はきみたちと一緒に旅ができて、
 とてもしあわせだった。なにもしんぱいしないで」

二匹は一緒によろこびましました。
ほんとうによかったと。

神様はつづけていいました。

「さあ、笑って。少しの間だけお別れしよう」

なみだはとまらなかったけれど、
二匹はせいいっぱい笑ってお別れを言いました。

「さようなら、また会いましょう」


450x730.jpg

神様のとなりにいたあの子が嬉しそうに、笑いました。

そうしてあの子は、神様と天国の旅へゆきました。


posted by ユーリー at 16:50 | 童話