2019年04月10日

誇り高き、逃げ道の塞ぎ方。

このお話の続き

王座を捨てて、
獣のような瞳で私を追いかけてきた
彼女の前で言うべきではなかった。

「嫌われるまでそばに居るだけ」

人はあんなに嬉しそうに、
希少な鳥の羽を紡いだローブを
誰かにあげてしまえるものなんだなと。

誇り高い人の前で思った。


これから何をするの?と、
追いかけてきた勢いで
笑顔で話しかける。

私が言えたのはたった一言。

「逃げ道を作るんだよ」

誇り高い人は、そんなバカなと。

あなたのそばに居ることで
私はさらに美しくなれたのに、
逃げ道を作れと言うのか、と。

何も言わなくてもわかってる。
だって瞳が答えていたから。

苛立ちながら、
逃げ道をいくつか作る私に
彼女は疑問を話しかけ続けた。

「闘えばいいのではなくて?」

「勝てる見込みがないよ」

「勝てるようになればいいのでは?」

「努力は資金と体力のある人の娯楽だよ」

「そんなに作っても、逃げ道は1つしかつかわない」

「いいや。この逃げ道はほとんど私はつかわないよ」

「誰のために?」

「私の好きな人たちが使うんだよ。あなたもね」


彼女の困惑した笑顔を
皆さんにも見せてあげたい。

最も欲しがっていた
愛されて居るという言葉を聴いた喜びと。

最も嫌っていた
逃げ道が用意されて居ると知った苛立ちを。


「逃げていたら、前進めない」

「いいや、逃げ道を作りつづけながら、近づけば良い」


少しづつ腕力は付いている。
目的にちかづきやすい効率も覚える。
好きになってくれる人に会えるチャンスも増える。

私はひとつひとつ、
これまで彼女に出会う前に会得した
経験と知恵を授けた。


「全て理解した。そして、あなたのやり方はサッパリ分からない」

「それでいい 」

「何故、獣のような瞳となる、わたくしから逃げないの?」

「逃げられないと心決めた時、無駄なことはしないだけ」

「どうなってしまうの?」

「心して、美しくなるあなたを見つめて喜ぶだけだよ」


今、私が。

脚が震えていることを
気づかれなかったろうか。

声が上ずりそうなことを
悟られなかったろうか。

つい、
目をそらしてしまったけれど。

熱いを帯びた怖い目線を
私に向けないでと
切望した想いが漏れなかったろうか。


顔を背けて続いたのは、
うなじに枝垂れかかる彼女の髪だった。


みんなに教えたい。

愛に溺れそうになりながら、
必死に叫びを堪えている荒い吐息。

そんなものが、
まるでケモノが唸りをあげながら
苛立って吹きかけられている怖さを。

逃げられない彼女の頭が
逃げ道すらない私の鎖骨に
磁石のようにくっついている。


「いま、すごく、怖いです」

「いま、すごく、この首、噛みちぎってしまいたい」

「いっそのこと、その方が楽になれるのなら、いいかも」


彼女は大笑いしながら、
私の体から離れて、空を指をさした。

「いいえ、超えてみせる。
弱さを認めるだけに特化した
好奇心ある人を愛してみせるぞ!
わたくしはこの太陽よりも、
美しくかがやける存在となるのだ!」


ああ、なんて無謀な人なんだろう。

そんなことしてしまったら、
私たちはあなたを見るたびに
太陽のごとく焼き尽くされてしまうのに。


「あなたの逃げ道など必要なくなるくらい、
まっすぐ先陣を切り開いてみせようぞ!」

さあ勝負だ。

護身用の私の剣を鞘から引き抜いて、
私の目の前の暗闇を切り裂きはじめた。


また、やってしまった。
とんでもないことになった。

コウカイサキニタタズ、
フクスイボンニカエラズ、

君子は豹変す。


勝負なんてするつもりはなかったけど。

王座を捨てた瞬間以上に嬉しそうで、
つい逃げ道を作るのをしばし忘れて
そのまま眺めてしまった。

「どうした、わたくしに見惚れたか?
もっと見るといい。
向き合うたびに、繰り返し、
わたくしを美しくするのだから」


怖くて美しいひとは、
やはり私を逃がしてくれなかった。

posted by ユーリー at 07:56 | 誇り高く美しい瞳