2019年04月17日

夜を抜けたその先で、弱き優しい人が抱きしめた。

この話の続き。

「あなたは誇りが嫌いでしょう?」


なぜバレた、いや、そんなはずはない。

私は過去を何も語っていないし、
この瞳で誇りに敵意を向けたこともない。

月夜の下、彼女がぽそりと呟いた。

「あなたに嫌われたくない」


新しいお茶の葉を手にして浮かれ
満月のお茶会を楽しみに淹れたのに。

お茶を出した途端にこれだもの。
嫌になっちゃう。

彼女の重要な話をするときの
タイミングの悪さだけは
これっぽちも共感できない。

唯一、私が未だに
彼女を嫌いなところのひとつだ。


そもそも、多くの人に好かれる
気品ある誇り高い気高い人。

そりゃあ、負けず嫌いな獣の微笑みに
足の震えてしまいそうに怖くなるけど。

私が同じセリフを言うのは理解できる、
しかしこの弱腰、何があった。


「私は嫌っていませんよ。
不安の原因を教えてください」

彼女は初めて、私から後ずさりした。

初めて、うつむいて。

初めて、涙目でこう言った。



「誇りを捨てたわたくしを見て、
少し嬉しそうにしていたのは、
ちやほやされていたわたくしを見て
いい気味だと思ったから?」


不安のわけがようやくわかった。

誇りを一度捨てた彼女は、
新しい道歩きのなか、
再び築き上げようとしている。

子供の頃から注目を浴びていた彼女の
生まれる前から用意された誇りを捨てて
初めての散歩道。

彼女は怯えていたのだ。


今の彼女は何も怖くない。

私は得意だ。

不安を小さくしてみたり、
不安を温め聖なる思い出にすることが。

突然、背中を抱きしめるなんて
そんな無謀なことはしない。

私は彼女の震える片腕だけ、
そっと抱きしめた。


「あのとき喜んだのは、
王座の誇りを捨てたあなたが
本当に美しかったからだよ」

「今はもう捨てる誇りは何もない」

「誇りがなくてもあなたは美しい。
王宮を飛び出したんだもの。
そんなあなたを美しいと感じる人に
もっとたくさん出会えるよ」

「わかった。
それまで自分自身の選んだ散歩道で
誇りを作り上げていこう。
あなたと目線を通わせ、美しくなろう」

「そうこなくっちゃ。
同じお茶を飲まなくても、
私は嫌われるまであなたの心のそばに居る」


怯えていた獣の目は、
ふわりと花のように笑うと
再びつるぎを鞘から抜き月夜の空にかざす。


「どうだ見たか、今は遠くに暮らす父上よ。
見てくれたか、今も娘の活躍を願う母上よ。

わたくしは私だけで夜の闇に立って居る!」


今まで聞いたこともないくらいの声量で
勇ましく張り上げた宣言。

夜の木陰に隠れ潜む小さい獣たちが
一斉に彼女の周りから姿を消した。


の、だが。

私はなぜが、
砂場の城をうまく作れたと言うような
可愛く胸を張る子供に見えた。


そうだ、私たちはまだ
出会っていないだけなんだ。

誇りなんてものは後ろに勝手についてくる、
前に掲げなくていい。

不安な夜のとき、こうして
少しだけ腕の中で抱きしめあえばいい。

美しさと可愛らしさを認める
出逢いを待つ人たちと
抱きしめ会えばいい。


満月の夜、夜更かしした私たち。

次の夜明けは、たぶん眠いから。
目覚めのお茶をそれぞれ別々に選ぶんだ。

唯一ひとつだけ
共感できることを喜びながら。

今日はすこし
優しい味のお茶だねと呟き合う。

posted by ユーリー at 20:58 | 誇り高く美しい瞳