少しだけ昔の話、私は誇り高い人が大好きだったんだ。
よく王族には会いに行ったよ、気高く雄々しく、美しかったからね。
ある日、私に興味を示す王子がいた。
異質なカリスマ性を持ち、一度夢中にさせると骨の髄までメロメロになる誘惑の歌がうたえる不思議な王子だった。
しかし彼は孤独を嘆き、己の身体に流れる血を浄化したいと私に知恵を求めた。
実は彼のカリスマは、私にはあまり効かなかった。けど、あまりにしつこいので、私はしかたなく浄化を勤しんだんだ。
が、いくら浄化しても彼の血は癒えなかった。ついに私は骨の髄まで力を使い果たしてしまった。
彼から逃げ惑い、恐れを抱き、こうして誇り高い人に出会って追いかけられても、逃げ道を作りながら少しづつ前に進んでいるのはね、血の浄化が成功したからなんだよ。
どつやったかって?
簡単さ。
王子自身ではなく、
彼の歌に依存した取り巻きの人々を浄化した。
そもそも、あの王族たちはどうやってカリスマを得たと思う?ヴァンパイヤの血を分けて貰っていたんだよ。
どこから手に入れたかわからないけど、それは脈々と祖先から王子までつながって行った。
でもね、生まれた時から植え付けられたヴァンパイヤの血は、己を崇拝してくれる人が「君だけ話を愛してる」とつぶやかれる言霊で、他者の血を支配できるんだよ。
王子に宿ったヴァンパイヤの血を浄化させるには、王子が大好きでしかたがない崇拝者の期待の眼差しから切り離すことが第一条件だった。
私が作った逃げ道から王子を逃して二年後、ヴァンパイヤの血をほとんど浄化した王子は話した。「もう心配しないで、僕は大丈夫。カリスマがない僕でも助けてくれる人を見つけたよ」
まるで牙を抜かれた獣のように、可愛い子犬のようで、私はそんな彼の方を好きになった、幸せを願った。
後に残った崇拝者たちは、血から発せられるカリスマ性に飢えて、元の王子に戻してくれと。王子の魂に近しかった私に少しだけしつこくお願いされたけれどね。
私は崇拝者たちを浄化した。きっとあの依存も次の春が過ぎればほとんど溶けていくだろう。
「これが私の誇りが好きで、王族が大嫌いな話の顛末」
「そろそろ教えてくれても良いのではなくて?」
「きっと楽しい気分にはなれないよ」
「それはわたくしが決めること」
「誇りの美しさって、どうしても、
王族という立場が持つことが多いよね」
「そんなことがあっても、まだ誇りを見たかったの?」
「あなたを美しいと語る人々の目が、本当に綺麗だった。
あんな目をたくさん見たのははじめて」
「わたくしの周りの人の目に興味を持ったのね…」
「どうしても、どうしても、好奇心を抑えきれなくて、
瞳の半分、横顔だけでも見たくて、会いに行った」
「なぜそんなに美しさに憧れるの?」
「私は強制浄化能力を持っているけど、
自分にこの能力は使えないんだ。
美しいものを見ると、私の心は浄化され癒さていく」
「なら、もっとわたくしは美しくならないとね。
そのために、あなたと見つめ合うことが必要だ」
「ああ、それが課題だ。
私はまだあなたの瞳をまっすぐ見るのが怖いんだもの」
「こっちを真っ直ぐ見てなんて、もう怒らない。
わたくしの横顔から見慣れはじめましょう」
ありがとうと、私が一言言うと。
彼女は顔を背けて、
目線だけこちらに寄せた。
あなたの素直さが、
わたくしを美しくさせるのだと、
ひとつ涙を落として笑った。
2019年04月28日
真に誰かを浄化する時、周りにいる取り巻き人から癒すのだ。
posted by ユーリー at 20:01
| 誇り高く美しい瞳