2019年05月08日
獣の眼と子狸まん丸おめ目。
こんなはずではなかったと、
あなたの前で何度思ったことか。
まず、
あなたが私に注目することも予想外。
次に、
あなたが私について来たのも予想外。
でも一番予想外なのは、
あなたより私の方が
眼光鋭くなったということ。
あのね、
私はあなたの目をまっすぐ見るために、
この瞳を鋭くすることを覚えたんだよ?
それがどうしたんだい?
あなたの瞳は鋭さを迷った
小狸のような眼差し。
あなたは言った、
この瞳がわたくしの弱さなのだと。
黒目を丸く見開いて、瞬きを幾度かする。
あなたは賢いから
自分からトリックを解説し始めた。
『わたくしが王族の頃、
2つの目を手に入れた。
獣のような気高く鋭い眼光と、
コダヌキのような可愛いまんまる目。
獣の目は気高さを守るために、
コダヌキの瞳は協力者を募るために。
2つの瞳は、
2つがあってこそ、輝いていられる。』
あなたはこう言った。
コダヌキのような目で
あなたは自分のやりたいことを
協力してくれるものたちを引き寄せていたのに。
しかし、私に出会ったことで、
ダンスと剣の稽古の時にしか見せなかった獣の瞳を、
王座の間で披露してしまったと。
「獣の瞳に焼き殺された人は?」
「一人も。あなた以外、思い切り見つめたことなどない」
「私は焼き尽くしても良かったと?」
「なぜか、あなたなら受け止めてくれると幻想した」
「いつもは獣の目を隠すの?」
「王座に憧れる人々に嫌われたくない」
「馬鹿だな、嫌いになんてならないよ」
「なら、この不安はどこから来るの?」
「人の評価の上で誇りを作って来たからだよ」
「あぁ、それは…言い訳が、できない….」
「評価は誇りと同じ。丁寧に歩いていれば、後ろについて来るものだよ」
「あなたはわたくしが、どう見えているの?」
「嫌われたくなくて、たまらない。誇り強く怖くて臆病な面白い人」
「ありのままのわたくし…あなたの言葉そのもの」
こんなに強くて美しい人なのに、
そのままの自分を認めるのが怖いらしい。
だから私は、彼女にひとつ呟いた。
「とても人間らしくて、素敵だよ」
不敵にふふっと笑うと、
頭を抱えながらあなたは剣を抜く。
「酔狂なモノたちに愛されるのも、面白い」
あなたは自分は面白さを選んだと、
森の奥地まで響く声で、宣言した。
ごめんね、森にいる小ぎつねたち、
悪気はなかったんだよ。
森でこうして叫んで宣言することが
愛するものたちに向けた
唯一の告白みたいなものだから。
少しだけ許してほしい。
あんなに大きな声を張り上げなくても、
みんな好きだよの一言でいいのにね?
しばらく己の愛の誓いを
愛する人たちに叫びつづける様を見ながら
暮れていく日を浴びた。
posted by ユーリー at 18:47
| 誇り高く美しい瞳