「御機嫌よう、小さき者。名は?」
「ニューシリウス、あなたは?」
「アテナイ54世」
「アテナイ、噂通りの目線だね。何の用?」
「ここにきたから成功できたと、あの人から聞いた。しかしあなたは剣を持っていない様子」
「ボクはここ、頭。知能思考であの人を守ってる。君も頭の回転は早い。ボクに勝負をする?」
「いいえ、興味がない。」
「そうか、なるほど。勝ちたいんだね。いつでも勝てるのに、あの人になぜ勝負をしかけないの?」
「弱きものを倒してもわたくしは上に昇れない」
「言い訳だね、上に上がることに飽きちゃったんだよね?」
「飽き…た?」
「空っぽだよ、あなた。エネルギーがのっぽになるだけで、中身はすっからか…」
「黙れ!!!」
「そうか、なるほど。いま勝負したら、あの人の濃密な愛に覆されるから怖いんだ」
「わたくしの気高さを焚きつけてどうする」
「あの人が作ったこの逃げ道で剣は使えない。愛だけがボクを切り裂ける」
「わたくしはたくさんの民を愛した、愛されている存在」
「恋は盲目。あなたに恋する民は、あなたを暖めても心を満たさない。役割がちがう」
「わたくしの民を愚弄するのか」
「いいや。恋してくれる相手は、あなたを温める役であって、あなたに愛の種を運んでくれる人じゃない」
「わたくしの民はいつでも愛してくれるぞ」
「そうか、なるほど。民の愛をたくさん集めたけど、体が熱くなるだけで、愛の層は厚くならないんだ」
「断言できる理由を述べよ、ニューシリウス」
「言葉に重みがない、目線は鋭く怖いだけ、雑な愛のやりとり、数で自分をごまかしてる。愛されてるから土俵は温かいが植えたいタネがない。空っぽだよ、あなたの言葉」
「2度言ったな!!ニューシリウスよ!!」
「ボクには剣を持つ丈夫な体も無いけど、あの人がずっと怯えていた脅威を取り去ることに成功した」
「ぐぬぅ…解せぬ」
「解りたくないなら、帰ったら?」
「引くわけには、いか、ない。わたくしは、いずれ、あの人を護らねばならぬ。わたくしはいずれ、あの人と、全力で勝負したいのだから」
「面倒クサイ人を焚き付けちゃったんだな、あの人。前の人より熱いから、何度も焦げただろうに」
「あの人の火傷の跡など見たことない」
「君の目は鋭いけど節穴だ」
「あぁ、ここは地獄か…」
「見える跡は無くても、時々焼かれた記憶が蘇り、毛穴から震えてる。その隙をたまに何者かに攻撃されるみたいだね」
「あの人の震えをなくすにはどうしたら?」
「抱きしめたらいいんじゃない?」
「…………は?」
「健康なんだからできるよね?」
「…………ん?」
「健康な体を使った声で抱きしめたらいいんだよ」
「わたくしの声だけで良いの?」
「ボクの身体はご覧の通り、人に触れる事すら出来ない。けれど、あの人はボクの小さな声を聴きながら、この声を抱きしめてくれた。さも、当たり前のように」
「これが成功者の声」
「その代わり、たった一言の心地よい重みのアイシテルを言うために、惜しげも無く時間と命を使う。抱きしめるに近い愛の種を植えるためにね。ボクはそれを学び、愛の種を開花させ、脅威を一掃する力を備えた」
「あなたは変われたのか、わたくしも変わりたい」
「そうこなくっちゃ。ちょうど新しい思考回転をしたかったんだ。噂通り、あなたは傲慢で謙虚で面倒臭くて素直だ」
「言葉の意味がちぐはぐだ」
「一緒に、言葉に熱を込めよう。受け取った声を抱きしめて愛を生み出そう。いつか思い切り、めいっぱい愛を込めて愛してるを言おう。まずは心の中で呟いても良い。ボクらの言葉は、勝利と加護に導く最大の武器なのだから」
「わかった。共にわたくしの愛しい民ごと、あの人を勝利に導き愛して護ろう」
posted by ユーリー at 16:08
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誇り高く美しい瞳