近頃、あなたはずっと
内側の自分と向き合ってあるのか、
私から話しかけていても
心ここに在らず。
雲の隙間を突き抜ける視線は
私に向ける瞳はずいぶん優しくなった。
あの鋭さはどこに、と。
私は聞きたくなったのだけれど。
あなたが鍛錬するために造らせた
小さな剣を見てすぐに分かった。
「あなたの獣ような鋭さを、剣先に込めたのですね?」
「こうするしかなかった」
「必死になって、民衆に顔を出して聞いたのは集めたのは、腕良い鍛冶屋を探すため…」
「そんなに勇ましいものではない。民衆から『普通』を練習していた」
「あなたにとって普通とは?」
「わたくしは、あなたのような人々と、手を繋ぎ、普通に散歩したい」
ああ、そうか。
彼女は憂いていた。
私が友人を誘う散歩に
参加できないことを。
ああ、そうだった。
彼女は怒りを堪えてた。
彼女が愛する人々と
真っ直ぐ視線を交わせられないことを。
ああ、そうか。
彼女は気づいてしまった。
美しさのその先に待ち構える
今を変えるために入る次元は
一人で踏み入ることができないことを。
愛する人々と手を取り、
過去を受け入れ、前に進むために、
今を変える力は一人では作れない。
愛する人々とだけ、
あなたの欲しい『普通』という
鋭気を輝かせる原子が生まれる。
「美しくなることは、いいのですか?」
「あなたを守るため此の剣を降る時以外、わたくしは『普通』になる」
「そんなに羨ましかったのですか?」
「皆まで言うな!あなたが愛する人々と手を繋いで、あの川辺を散歩しているのを見た瞬間、強く想ってしまった!前の時空に戻れない!」
なぜかな。
あなたに思い切り睨まれても、
それほど怖くない。
なぜだろう。
あなたには前より多くの人々が
会いたいとやって来てる。
あなたの恐ろしくも気高い瞳を
美しくなる夢を
応援していたはずなのに。
あなたは愛する人々との散歩を
夢の選択肢に入れた。
あなたは瞼を震わせながら、
こじ開けていた目を閉じて、
私の前に片手を差し出した。
「獣の誇り高い瞳を無くした瞬間、コダヌキのまん丸目を細めた瞬間、薄めで薄っすら微笑するわたくし程度。魅力がないかもしれない。
すぐにとは言わない、あなたは目を閉じていてもいい。わたくしが川辺で手を引くから。
あなたと共に、あなたが愛する人々とあの川辺を歩いた時のように。どうかわたくしも、選択肢に混ぜて欲しい。
あなたが愛する散歩の時間に、わたくしの『普通』を混ぜて欲しい。」
私に見つめて欲しいはずなのに、
私の目の代わりになると言ったのに、
あなたは目を閉じたまま。
なぜだかすべてがちぐはぐで
おかしくて、私は思わず吹き出した。
あなたは少しだけムッとしたようで、
薄眼を開けて、睨んだ。
けれど、あなたは
自ら差し出した手を下ろさず、
引かなかった。
「私と繋ぎたいなら自分から繋げばいい。いつでもあなたに握られた手を、握り返そう」
珍しく私は
後ろ飾りにしていた
小さな美しき誇りを前に掲げ見せた。
獣の瞳でないあなたは思わず、
身をすくめて後ずさりしたけれど、
差し出した手は下ろさなかった。
あなたは迷いながら、
独り言をぶつぶつ呟いて。
私の下ろされている手を
自分と繋げようか思考する。
それもなんだか可笑しくて。
つい、出来心で。
可愛らしいあなたに、こんな提案をした。
「あなたが美しさを極めんとするとき、私はあなたの道を繋げよう。あなたがいつでも美しき道へ戻ってこれるように。
私が今を置き去りにして獣ように挑むとき、あなたは道を繋げて欲しい。私がいつでも『普通』に戻ってこれるように」
あなたの顔が思い切り歪む。
号泣しながら、
片手だった手を
両手いっぱい広げて
私を抱きしめた。
交わりたくてたまらなかった二人の
二つの瞳の道筋は、
こうしてようやく交わった。
posted by ユーリー at 23:07
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誇り高く美しい瞳